大器无成

大器はその大きさゆえに、決して完成することはない

おいしいフィルターコーヒー

ここ数年のコーヒー生活でわかってきた、フィルターコーヒーTipsのまとめ。

酸味とコク

この2つをいかにバランスよく出すかが、コーヒーの出来を決める。 身も蓋もないことを言えば最終的には「好みの豆を使う」ことに尽きるけれど、コーヒーをどう淹れるかに応じて、このへんのバランスを微妙に調節することができる。

実のところ「苦味」も調節されている気がするのだけれど、あまりきちんと評価できていない。これは豆の炒り具合による部分が大きい気がしなくもない。

あと、ほんとうは「香り」という欠かせないファクターがあるのだけれど、こちらのコントロールはほぼ無理なので割愛。よい金属フィルターを使うとか、よいマシーンを使うとかしてください。

抽出を左右するファクター:粗さ、温度、時間

基本的にはカラムクロマトグラフィーみたいなものなので、苦味・酸味・コクの個々の成分について、ある程度の典型的なタイムコースが存在する。

  • 酸味:最初に出てきやすい。抽出温度が高ければ高いほど、あるいは粉が細かければ細かいほど、出方が著しいように思う。
  • コク:後のほうに出てくる。抽出温度が高くなっても、出てくるタイムコースはそれほど変わらないように感じる。粉が細かくなると、逆に失われやすくなるように思う。

抽出温度は、沸騰させて火からおろしてからの時間でなんとなく変えている。たぶん70℃〜90℃くらいの振れ幅。

粉の挽き具合は、味に大きな影響を及ぼす。エスプレッソ用なんかの細かいやつだとコクを出すのは至難の技なので、酸味フェチでもないのであればフレンチプレス用のような粗めの粉を使った方がよい。

抽出時間の調節

最速の抽出方法は「ガッと入れてバッと出す」みたいな感じ。とにかくお湯全量を一気に入れて、全部が出てくるのを待つ、という姿勢。多くの場合それだと酸味が効きすぎるので、なんとかして抽出時間を引き延ばしてコクを増やす方策を考える:

  • お湯を何回かに分けて入れる:フィルターの上に載っているお湯の量が多いほど水圧は高くなるはずなので、そのぶんフィルターを通り切るまでの時間は短くなると考えられる。逆に少しずつお湯を入れれば、そのぶんフィルター内にお湯がたまる時間が増えると期待される。
  • お湯の液面が、粉から溢れないようにする:粉を通らずに下に落ちるお湯の量が増えると、そのぶん単位量あたりの粉がお湯にさらされる時間が減ってしまう。一方、お湯に浸かっていない粉の部分が増えても、かえってその部分の抽出時間が減ってしまう。理想的には「粉の層がちょうどひたるくらい」の液面で持続させることだと思われる。

抽出時間をかせぐ「ベター」な方法

ただし現実問題として、何回もお湯を入れ直したり、ずっとちびちびお湯を入れ続けたりするのはつらい。実際には、以下のように粉の「ろうと状構造」をつくる方法がベターな気がする:

  1. 粉全体にお湯を染み込ませる:カラムクロマトグラフィーで言う「アクティベーション」の過程。とは言っても、粉の層の最深部まできちんとお湯が到達したかどうかを知るのは難しい。実際には、下のようなことをしている:
    1. フィルターの中心から円を描くような感じで、少しずつ湿った部分を広げていく(真ん中の部分の方が粉の量が多いので)。
    2. フィルターの下に10滴以上、粉まみれのお湯が落ちてきたことをもって、「お湯がいきわたった」と判断する。
  2. 水流強めでお湯を回し入れる:ステップ3以降の「ろうと状構造」を作ることが目的。目的とする「ろうと状構造」の縁よりすこし高いくらいまで液面を上げる。
    • 最初は液面に乾き気味の粉が浮いていることがある。たぶんこれらの粉を意識して沈めたほうがよいのではないかと思う。
    • お湯の中で粉をきちんと対流させたほうがきれいな「ろうと状構造」ができやすいと思うので、入れ始めの段階では「中心部から円を描くように入れる場所を変え、だんだんとその円を広げていく」という感じがよいと思う。
    • 液面から粉が消えて泡だけが見えるようになったら、あまり縁のほうにお湯を入れない方がよい(ろうとの「壁」が崩れてしまうことがある)。ろうとを崩さないように、中心部に回し入れるようにする。
  3. フィルターの表面からお湯が消えるまで待つ:粉が対流をやめて沈殿するのを待つのが目的。うまくいっていれば、この段階で漏斗状の構造が見えてくるはず。
    • もし粉の面がほぼ平面になってしまっていたら、おそらくお湯を入れるフェーズの後半で縁の部分にお湯をかけすぎたのだと思われる。
    • ろうとの壁の厚みが不均一な場合も、おそらく壁ができた後にお湯をかけたことで壁が崩れてしまったのだと思われる。
    • ろうとの壁の厚みにそれほど違いはないが高さが不均一な場合、おそらく最初に作った液面が高すぎたのではないかと思われる。
    • どんな状況であれ後のステップができないことはないので、諦めて抽出を続ける。
  4. フィルター中心部にひたすらお湯を流し込み続ける:基本的には、以下の繰り返し:
    • ろうとの壁を崩さないように、中心部に少しずつお湯を入れていく。
    • 液面がろうとの縁まで上がったら、入れるのをやめる。

ほんとうは、ろうとの形状によって部分ごとの抽出時間に違いが生じてしまっていると思う。ただ現状ではそのあたりをきちんと計算して最適な形にすることはできていない…経験則的には、底の部分(フィルター中心部)が厚ければ厚いほどコクが出やすい気がしているけれど、お湯の量も変動してしまっているので何とも言えないところ。

適度な「淹れ加減」

当然のことながら、一定量の粉から出せるコーヒーの成分には限りがある。どこかでお湯を入れるのをやめなければならないけれど、その見極めは難しい。お湯を入れ過ぎればコクの割合が増える一方で、薄味のコーヒーになってしまう。一方でお湯の量が少なすぎれば、コーヒーとしては濃くなるが酸味が勝ってしまう可能性が上がる。仮に粉の量が毎回ぶれるのなら、最適なお湯の量を何らかの形で知りたいところではある。

フィルターで淹れる場合、液面の見た目がだんだん変わっていくのがわかる:

  • 最初は液面がクリーミーな泡で満たされていて、お湯をちょっと入れてそれを押しのけても泡がその穴をすぐに塞いでしまう。
  • 何回かお湯を継ぎ足していると、だんだん泡の全体量が減ってくる:最初は少しずつ泡の厚みが減っていき、もう少し後になると泡のない液面が増えてくるようになる(なぜなのだろう?よくわからない…フィルターに吸着してしまっているのか、粉の層に再吸収されてしまっているのか、あるいはお湯に少しずつ溶けこんでいるのか?)。

このような液面の見た目を利用することで、最初に入れた粉の量に関わらず「お湯の止めどき」を見極めることができるのではと思う。個人的には、泡がまだ液面の3/4くらいを占めているぐらいが一番ましなバランスである気がする。